閉ざされた世界を彷徨っている君達を
僕は見ている事しか出来なかった
耐えきれなくなって目を背けてしまったけど
一度振り返った時に見える少しの残像
一度ズレた角度から放たれる別の世界

1.過去と現在の距離

過去は封を去れた時間だ
一日一日を小分けの瓶に入れて
一つずつ横に並べて行く
ある日何かの拍子で瓶は粉々に散った
時間は空気の中へ溶けてしまって
多分何処かを漂っているんだろう
二度とすれ違うことも無い
それを遠くからだけど
眺めることができる場所があった
時間は目には見えない
どんな形で漂っているのか見当もつかない
頭上を流れる雲を見て
多分あんな感じだなんだろうと
ただ眺める時間の中に居た
目に見えてなんかいないのに
確実に遠ざかっていることだけは解った
空気中を漂う過去の時間は
ずっと遠くにある
何百光年も遠くにある星へ行くことよりも
遙かに難しい
私はまだ地球の上に立っているから
この幾つものクレバスが引き裂かれて
たくさんの新しい海が出来ても
何億年か後には大陸は一つになるって
そう言うことにされている
そしたらね
その頃には今とは全く違った
美しい世界なんかあったりしたらいいね

2.時の層

懐かしさを道標に歩けば
見慣れた景色が見えてくる
そこに自分が知っている風は流れていない
子供の甲高い声が響く公園の樹々は
新しい時間を受け止めている

手元から伸びる光が一万分の一度違ったら
遠くの宇宙ではまるで違う星に光が届く
いつもと同じ帰り道を
あの日変えてみたら
今はどれ位変わったのだろう

能動も他動も
実はそんなに違いは無い
人の所為は自分の所為
巡り巡って今がある
全ては必然であり結果だ
夢は夢で終わらない

でもそんな一方通行を逆走する中に
人の優しさはあるのかも知れない

3.無限回廊と操り人形

仮に今振り返れば
随分高い所に光の点が一つ
瞬いているだけの光景かも知れない
そんな虚無感と意識が受動的に流される中
大工のチェヴァーロは終わらない螺旋階段をおりて行く
次第に歩みを早めて行った

光の点の中には
階段を見おろす人影が一人
しかしそれは主を失ったぬいぐるみ
意識が薄れる中
螺旋階段を降りて行く足音を聴いている

いつかその足音も
聴こえなくなってしまうかも知れない
もう随分反射音ばかりになってしまった
もはや音は虚像かも知れない
足音が聴こえなくなるのは
きっと寂しい事に違いない
長い耳を欹てて
彼が広げる羽根の風切り音も
聴き逃したくない一心で
意識を保っている
朦朧とした意識の中—–

 

—トカン—カラン—

 

地上で風が吹いて
ぬいぐるみは落ちてしまった手に縫い付けられたボタンが
時折螺旋階段の手すりに当たる

その音はとても早く
反射音の成分を増して行く
まだチェヴァーロには追いつかない
追いつくのだろうか
歪んだ空間は
パラレルワールドに繋がりかねない
総ては意識次第

–多分
この螺旋階段は空の城の最下部にある
いつの日か底に到達して
階段がなくなって空の中に放り出される
高度9000メートル
下には青い海が見えるはずだ

誰にも見えない中で風切り音が響く
チェヴァーロは羽根を広げて飛んで行けるはず
かつてぬいぐるみだった
一人の人間と手を取り合って

4.曖昧な世界 – 不鮮明な焦点

– – – 

5.A field of rapeseed(Retake)

目の前に広がる青と黄
純白を身に纏った誰かが
そこへ溶けて行って
また青と黄

菜の花畑のツンとした匂いが
全てが新鮮だった頃へ記憶を書き換える
立ち入った者は皆溶けて行く
そして香りになって
空を漂って
この地球を包んで
青に溶ける

6.アポトーシス

まずは生きる事。

7.風

みんな
形あるものばかりを
見たいわけではない

8.朽ちたシーラカンス

– – –

9.砂の歌

眼の無い魚が砂の海を泳ぐ
なぜ苦しいのかも分からずに
鱗から血を流しながら
真皮で感じる砂の凹凸
そんなものを道標にしている
水の中へ帰れない
出発点へ戻っていることにも気づけない
変わったことは傷が痛むこと
それが増していること
鼻腔に入った砂が心地悪いこと