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楽曲について
私の従兄にあたるフルート奏者の行川貴作曲の小品。2011年の3月、丁度東日本大震災の直前に小編成用が完成しており、その約一ヶ月後に吹奏楽用の大編成版が作成されていた。ここでは彼を「貴ちゃん」と呼ばせていただきたいと思う。
丁度小編成用が完成した際に貴ちゃんから電話が来て、約2時間くらいこの曲について会話をすることがあった。内容はこの楽曲の大編成版を作る際に、どのように編曲を行えばよいものなのか、と言う相談だった。旋律に対する副旋律の書き方とか、伴奏型やオーケストレーションの方法など、作曲する際のいろんな事についての談義だった。
その際に、大編成版を作る時の貴ちゃんの構想を聴くことができた。動機の展開のさせ方はキャラクターとストーリーがあり、それに対するオーケストレーションも幾つか構想が立っていた。中間部のホルン四重奏のセクションなどは特に、与えたキャラクターの性質を考えてか、その編成にこだわっていた。
この楽曲にはタイトルにもある通り、「家族」がテーマとなっている。
曲中に現れる3つの主要な旋律があるが、それぞれ「父」「母」「子」のキャラクターが与えられている。(作曲者談)
曲の流れ
冒頭12/8拍子。イントロ後に現れるクラリネットのクワイヤーで現れる主題は「父」。家族の先導きって行進してゆくような楽想になっている。第1部の中間部ではリズムで面白い遊びが行われており、愉快な性格の楽想が織り込まれている。
次に現れる主題が母、4/4拍子。この主題はたっぷりと長い音価で朗々と歌われるように書かれている。そしてこの主題が、貴ちゃんの当初の構想にもあり、特に拘っていたホルン4重奏のセクションである。ホルンの温かい音色という印象を、特に母というキャラクターに与えたのではないかと思う。
この次に現れるのは「子」。細かいパッセージがコロコロ転げまわるように、フルートとクラリネットで奏されるが、その下では「母」の主題が子どもと同じような軽快さを持って奏される。
最後に12/8拍子に戻り、二声での結句の後にエンディングとなり、楽曲は終了する。
休日に公園へ家族で遊びに来て、母と子が楽しそうに遊ぶ様子を父が暖かく見守り、最後に、もう日も暮れたし帰ろうか、と、父が母と子を呼び帰路へつく。
実際貴ちゃんがどの様なストーリーをこの曲に込めたのかは、残念ながら細部までは聞かされなかったが、この曲の展開を見ていると、私にはその様なストーリーが浮かぶ。
2012.05.28 15:00 貴ちゃんはこの曲については多くを語らないまま、次の世界へと旅立っていった。とても美しい戒名ももらっていたし、私のように下界でグズグズ生きている人間には考えられないほど身分の高い人になってしまった。
私の母は、貴ちゃんの容態の急変を聞かされた後、すぐに彼の居る場所、「杜の都」へと飛んでいった。貴ちゃんの容態を電話越しに聞かせてもらい、その辛さを想像することしか出来なかったことを悔しく思う。実際、私がその当時貴ちゃんの元へ行くのが正解か否かわからなかったが、会いたかったと言うのが実際である。
私が丁度仕事の休みの日で、2代目のショパンと散歩をしている最中にその連絡は来た。 帰ってからクローゼットから黒い服を取り出している際も、自分が何のための行動をとっているのか理解できず、「一体誰の何の為に準備をしてるんだ?」とその疑問ばかりが反芻していた。
柩から覗いた顔も、多少顔色は悪いが寝ているだけのようにしか見えなかった。それは私が受け入れられなかったからなのかもしれないが。
演奏情報
初演
2012.10.21 “輝”ママ☆キラキラ / Live @ 仙台市青年文化センター
ママさんブラスぴよぴよ隊, Wind Orchestra
大沼弘基, conductor (#3)
楽譜について
2012.07.02 初版完成
ママさんブラスぴよぴよ隊が初演をしてくださるとのことで、それに向けて譜面を作成した。
ぴよぴよ隊は貴ちゃんがトレーナーを務めていたブラスバンドだ。
幸い楽曲は終止線まで引かれておりほぼ完成されていたが、ダイナミクスの表記がまだされていなかったことと、重ねられるであろう楽器が空白だった部分があったため、その2点に関しては譜面から読み取れる範囲で補填を行った。
またこの初版は平成24年度ぴよぴよ隊のメンバーにあわせて若干のパートの変更を加えている。
Oboe: Fluteパートに演奏内容を移した。
Alto Clarinet: 殆ど空白だったが他と違う演奏内容があったため、4th Clarinet in B-flatへと変更した。
この2点は奏者が居ない故である。
他、平成24年度ぴよぴよ隊にはElectric Bass奏者が居たため、低音部の一部に重ねた。
初版編成
Wind Orchestra
3 Flutes (3. order Piccolo)
4 Clarinets in B-flat
1 Bass Clarinet
3 Alto Saxophones
1 Tenor Saxophone
1 Baritone Saxophone
1 Bassoon
4 Horns in F
3 Trumpets in B-flat
2 Trombones
1 Bass Trombone
1 Euphonium
1 Tuba
1 String Bass
3 Percussion Players
-Snare Drum
-Bass Drum
-Cymbals
楽譜は貴ちゃんの自宅に保管されている。
楽曲分析
形式: 複合三部形式 [序奏, A(a,b,a',c), B(d,d',e), B'(d''), 後奏]
調: ヘ長調-変ロ長調
拍子: 12/8-4/4-12/8
時間: 約4分30秒
第1主題:
練習番号A, 8小節目から提示されるクラリネットアンサンブルの内容。
第2主題:
練習番号B, 48小節目から提示される、ホルン、バストロンボーンのアンサンブルによる内容。
第3主題:
練習番号K, 88小節目から提示される木管楽器群の細かいパッセージ。
序奏:
華々しいファンファーレ。この楽曲を構成する要素が多々提示されている。
異なる要素を持った楽想が多重に提示されるが、大きく分ければ次の3つである。
・木管楽器群で奏される流麗で細かいパッセージ。→第3主題に相当。
・低音楽器群で奏されるポリリズム。→複合的なグルーヴの存在と、第2主題における複雑なリズムの概念に相当。
・基本的な3連符系のリズムの要素。
そして、この序奏のファンファーレの大まかな構成は、第二提示部後半のファンファーレと統一を図られている。
・金管楽器で提示される内容の音域の比重の置き方。
・結句にホルンのグリッサンドを置く。
第1部:
「杜の家族」ということで、3つの主題にはそれぞれ「父、母、子」のキャラクターが当てはめられている。
しかしメロディーそのものが担っているのは音楽的な機能であるので、完全なるアイドル的なキャラクターとしての存在ではない。
ここで提示される、練習番号Aの区間の旋律が「父」。
練習番号Cより新たな主題の提示が行なわれる。トランペットの下行型の旋律がそれに該当する。交互に奏されるフルートの上行するスケールの存在を同時に見れば、この旋律は後に第3主題へと処理されるものに見て取れる。
練習番号Dで比較的自由に経過句が奏された後、練習番号Eで第1主題の旋律と練習番号Cの旋律が、主旋律、副旋律の関係に置かれ、主題の再提示が行なわれている。
練習番号FのTubaソロはここで提示された副旋律(「子」としての伏線として見ても良いだろう。)による自由な変容で、その楽想を強調するために木管楽器群でポリリズム的な新たなリズムを奏している。
主題の変容を辿るのはここまでとして、次に時間的な変化を見る。
練習番号Aからのリズム的な動きは殆どがパーカッションに委ねられており、音程を持ったバスラインには与えられていない。次に付点2分音符による停滞気味の動きに14小節で8分音符の細かい動きが現れる。
この楽節では特にこのようなバスラインの変化に注目すべきである。
練習番号Bと練習番号Cは、練習番号Aの時間変化を拡大されている内容である。練習番号Bからはオーケストレーションが変更されて提示されたに過ぎないが、末尾にテノール声部(Euphonium)で副旋律の導入がされたあと、練習番号Cのポリリズム的な、全体の流れの中では変わった性質を持つリズムの楽想に入る。
このように、練習番号Aと練習番号B,Cは、使用される素材は違うものであるが、「おいしいものを最後にとっておく」的な動きをしている点では、関係性を持っており、その時間変化を経てからの、練習番号Dで奏されるマーチらしい楽想に入るのである。
その方向から見てもTubaソロのシーンは後に登場する第3主題を、第1部から第2部へと受け渡す機能を担っている。
第2部:
ここの主題に与えられたキャラクターは「母」。
冒頭2音間の関係は第1主題と比べると反行型を採っている。しかしフレーズの大きな流れを見ると一つと山を形成している点では第1主題と第2主題には類似している点が多い。
ここで一旦第1主題と第2主題の大きい視点での楽想を見てみると、第1主題では主旋律と副旋律の登場があり、主旋律上で副旋律が自由に遊べる内容になっているが、第2主題でもそのストーリー的な内容が行なわれている。
ホルンアンサンブルによる第2主題の上で、第2主題の再提示が行なわれている練習番号Hではトランペットで開始される、特徴的なアーティキュレーションを持ったパッセージが登場する。旋律的には第2主題に支配されているが、このパッセージのキャラクター性を考えると第3主題である。
練習番号Iより、ホルンはカルテットでフーガ的な動きを行なっている。半ば強引だが、音の動きと落差をみると第1主題で、いろんな方向からイタズラ的な愉快さを持って居るのが、やはりある程度第3主題に支配されている状況にあるように伺える。
次にファンファーレである。じわじわと上行する音型の性質から見れば第1主題からの発展と見れるかもしれないがそこまで厳密な関連性よりも、次の練習番号Kへ向かうためのエネルギーを貯めているような楽想であることが第1なのだろう。
ホルンでのグリッサンドを迎えた後、第3主題へ入る。
第3部:
今まで伏線として登場していた第3主題の断片が本来の形を持って現れている。切迫の掛け方は声部の増加によるもので、単旋律から2声部、2声部のハモリと変化を辿っている。
第2主題は楽想的には第3主題の内容に支配されている。
後奏
2声部のカデンツァが登場するが、同時にここで冒頭の12/8拍子に戻っている。
これはこの楽曲に於いて言えることかもしれないが、12/8拍子であること自体が第1主題の根底の楽想であるので、旋律的な内容はエンディング的な内容になるが拍子感で再提示的な時間をつくり上げている。