ハジメと羊の物語

よくもまあ 見事に
此処まで肥えたものだと感心する
そんな体つきのハジメは ミカンをこよなく愛しているが
それを皆から言われるのは非常に嫌がるみたいだ
ハジメは日替わりで 羊を飼っていたが
面倒くさがりなので 羊が糞をしても片付けないし
もちろん 餌なんて決まった時間にあげた事などあっただろうか
そういう面倒な時には 音もなく姿を消すのが ハジメである
然し 羊飼いの長が来ると 決まって良い顔をする様になっている
まあハジメと言うやつは
レールを敷かれた人生の上で ヒョウヒョウと生きてきた人間なので
媚び諂うのが 三度の食事なのだ

ハジメは 歌う羊を何頭か任されていたが
その羊達が ハジメに餌をよこせだの何だの言って
一応ハジメも途中まで仕事はするのだが
また例のごとく 姿を消すのだ
これに呆れた歌う羊達は ハジメの言う事を聞き流すようにし
年に一度の大合唱では
ハジメの意見などこれっぽっちも取り入れないようにしていた
まあ羊達もハジメの扱い方は幾分知っているので
ヒョウヒョウとした表情をすれば良いと言う事を 代々新入りの羊に伝えていた

歌う羊達には一つ悩みがあった
ハジメが 何のために設けたのか知らないが
羊の歌い方に あれやこれやと制限を掛ける
まあそれが ハジメにとっては
自分の仕掛けた制限に従う羊を見て 如何にも自分が仕事をしている
と言う風に思っていたのだろう
羊は 鉄板の上で歌ってはいけないと言われていた
ハジメは 木の板の上でしか歌ってはならないというのだ
どう考えても 鉄板の上で歌った方が 良い歌になるのに
それは ハジメ以外の 他の羊飼いもそう言っていた
でも そこでハジメが鉄板の上で歌う事を許すと
自分の仕事をしている様を装う事が出来なくなり
羊飼いとしての地位が危うくなるので
意味の分からない制限をかけるのだ
ただ歌う羊の群れのリーダーは そんな事はおかしいと思い
年に一度の大合唱では ハジメの言う事など無視して 皆で鉄板の上で歌った
案の定ハジメは 目から血を吹き
ミカンを貪り食いながら怒り狂った

ただ 羊達の言い分としては
ハジメは 日ごろ仕事はしないし
ハジメは 面倒な事からは逃げるし
ハジメは わざと自分達を苦しめるし
ハジメは 終いには歌の事なんか何一つ分かっていないし
だって ハジメは息を吐けば 歌が歌えると思ってるのだから
これは笑える
どこまでハジメが 全く深みのない ぺらぺらのミカンなのかが よくわかる
そんなハジメが
羊達のオンステージの日に
あたかも 自分が 歌う羊達を管轄しているかのような面をして
羊が悪い事をしたかのように見せかけ 大声でミカンを食べながら叫ぶ
羊達にとって非常に不条理な 腹立たしい事としか言いようがない

歌う羊のリーダーは
今は成長して別の牧場に行ってしまったが
いつかハジメの居る牧場に顔を出さなければならない日が来るので
その時は ハジメの怠惰な行いを
羊飼いの前で演説するのだそうだ

そんなハジメは
今もヒョウヒョウと 羊を追い回している
食っては寝て 食っては寝て
更にハジメの体は 肥えてゆく